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無軌道な人間たち『アイアムアヒーロー』第64話 [アイアムアヒーロー]

【ネタバレ注意!】本記事はネタバレを含みます。本編を未読の方はご注意下さい!
 

呑気にアクビをする荒木。

後部座席には英雄、そして最低限の拘束だけを施され、普通に座っている比呂美。

英雄なりの優しさからなのか、それとも、もし将来的に特効薬が発見され、
比呂美が元の状態に戻れた時、自分が優しく扱ったことを覚えていてくれたら
・・・みたいなことを考えたのか、そこまでは分かりません。

いずれにせよ、比呂美を必要以上に手荒く扱うことを嫌っているのは確かですね。

そんな英雄に対し、ネチネチッと言葉で責めてくる荒木。

以前にも書きましたが、荒木と英雄の間には、
いつの頃からか、「主」と「従」の関係が築かれつつあるようです。

そして、銃で感染者を撃つ、比呂美の世話をするといった“汚れ役”を
「役割分担」という言葉を盾に、英雄に押し付けています。

この人、やっぱり信用できない臭いがプンプンしますなー。


あ、そうそう。

耳栓についてのやり取りで、英雄が「荒木さんの分までないです」
と返していたのが少し笑えました。

これ、嫌味とか皮肉じゃなくて、素で言ってますよね。

そして、早くもイヤープロテクター装着完了(遠慮なし)。

英雄の天然っぷりが見られる、ちょっと面白いシーンでした。



市街地を走る荒木の車。

ひと気は無く、見えるのは火災の痕跡が残る家屋、そして首を吊った遺体。

その遺体の首には、生前にしたためたと思しき書き置きが。

そこに書いてある内容からすると、「感染の可能性がある」というだけで、
自ら命を絶ったようです。

ただ、この1コマだけでは、本当に感染していたのか否かは分かりません。

しかし、ここで気になることが一つ。

富士の樹海で英雄と比呂美が出会った直後に遭遇した感染者は
首を吊った状態でも動いていました(第34・35話)。

つまり、首を吊ることは、感染者を死に至らしめることにはならないはず。

そう考えると、今回のこの人が全く動いていないことからも、
感染していなかった可能性があります。

単なる勘違いだったのかも・・・。

いや、もしかしたら、「感染した」ということは口実でしかなく、
本当は自らの命を絶つ機会をずっと探していたのかもしれません。

「御迷惑をおかけします」「お手数ですが」という文面を読むだけで、
他人への気遣いを忘れない、この人の生真面目さが伺えます。

あまりにも哀しい光景です。


それに対して、人を撥ねたにも関わらず、
そんなことはお構いなしに市街地を走り続ける荒木。

もう、この世界が元の秩序を取り戻すことも、
そういった世界に自分が戻れる可能性も、全部否定したわけですね。

冒頭のネチネチとした言葉責めや、人を撥ねても動じない様子などを見ると、
かつての三谷さんと共通する部分が非常に見られます。

世の中に対する鬱屈したものを抱え、それをこの混乱に乗じて一気に解消する。

何と言うか、非常に危険な部類の人々ですよね。


そんな荒木を見て困惑する英雄。

その英雄の手をそっと握る比呂美。

彼女は、その虚ろな目で何かを見据えているのかもしれません。

半感染した比呂美の方が、荒木よりも人間らしい暖かみを醸し出しているのが
なんとも皮肉なシーンです。


そして、最後に衝撃の「タイヤネックレス」。

私はこの陰惨な行為の名前を今回のエピソードで初めて知りました。

戦場カメラマン志望だった荒木だから知っていたのでしょうか。

余談ですが、バラエティ番組等でよく見る某戦場カメラマン氏は、
温和でスローモーな語り口からはイメージできませんが、
ニュース番組でも放送できないほどの悲惨な場面・言葉にできないほどの地獄に
何度も何度も遭遇しているそうですね。

テレビでは、あまりその事実を語る機会が無いようですが。


さて、このタイヤネックレスで殺された人を見ても分かるように、
英雄たちの世界では、感染者よりも非感染者の方が怖い存在になってきました。

かつてスピリッツに連載されていた『日本沈没』にも同様の描写がありましたが、
それまでの社会の秩序や規範が崩壊した時に最も怖いのは
人間のエゴや欲望、恐怖心による過剰な防衛行動でしょう。

「魔女狩り」が形を変え、「感染者狩り」として現代に蘇り、
それが感染者並みに拡大することになるのではないかと思うと、
なんとも暗然とした気分になりますね。

【追記】

第65話の記事はこちら


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